ミルクティ01

キャラ見せのような話 アクア視点三人称


 ぱん、という乾いた音が、荒野の空気を震わせた。
 頬を張られたアクアはもちろん、その胸倉に手を伸ばしかけていたゴッドも、突然の出来事に声を失う。
 怒らせた。そう思って躊躇いながら顔を上げ、アクアはいよいよ驚いた。あのメイリンが、目に涙をためていた。
「メイリ――」
「何やってるのよバカ!」
 アクアの声を振り払うように、メイリンが叫ぶ。
「あなたは、私たちがどんな思いでここまで付いてきたか分かってるの!? 偶然とか、何となくとか、そんな理由じゃないのよ! あなただから、一緒に行こうと思ったの! 国を変えるなんて、一筋縄じゃいかないことは分かってた。だけど、それでもやろうと思ったのは、あなたが一緒だったから! なのにどうしてそんなこと言うのよ!? そんなことしてアクアが死んじゃったら、私、わたしたちっ……!」
 ぱたぱたと、干乾びた土の上に涙の粒が落ちた。
 アクアが、故郷から植樹された茶があると信じて辿り着いた地。そこは茶畑どころか、雑草もほとんど見えない更地だった。
 騙されたのだ、あの貴族に。散々力を貸してやって、その恩への返事がこれだ。人目のないこの場所で、彼は“知りすぎた”アクアたちを始末するつもりなのだろう。貴族の雇った始末屋となると、アクアたちの敵う相手ではない。それでも逃げずに待ち受けて、何か言ってやらねば、ほんの一矢でも報いてやらねば気が済まないと思っていた。――けれど、
「アクア」
 メイリンの、柄にもなく悲痛な声に名を呼ばれる。ルサ・イルが小さく頷く。ゴッドを見やると
「何だ? もう一発殴るか?」
 と脅された。ユールはここまで来た道を振り返って
「じきに追手が来る。悩む時間は、あと五分だ」
 アクアはそれに、首を横に振って返した。
「五分も立ち止まってたらもったいないだろ。――行こう!」

「いやー、それにしても気持ち良かったね。メイリンちゃんの平手」
 教えられた荒れ地がようやく見えなくなった頃、ルサ・イルが誰にともなくそんなことを言いだした。その目は前方、並んで歩くアクアとメイリンを見ている。すぐ前にいたユールは一瞥をくれただけで何も言わず、隣のゴッドがルサ・イルに答える。
「俺は自分でしばきたかった」
「あっはは。言うと思ったー」
「そんなことよりルサ・イル、お前はいいのか?」
「なにが?」
 ゴッドが深刻そうに声を潜めても、ルサ・イルは笑みを崩さない。
「何って、アクアの故郷の木ってことは、お前の家の木だろ。また一から探さなきゃなんねーんだぞ」
「ああ、そのこと? いいのいいの。大体の見当はついてるし」
「見当? お前何か知って――」
「おーい、アクアー! メイリンちゃーん!」
 聞き捨てならない言葉を残して、ルサ・イルはアクアとメイリンのところへ駆けて行く。そして二人の腕を取って、こう言った。
「次は、王都に行ってみよう!」
 腕を掴まれたアクアとメイリンも、二人の間で笑うルサ・イルも、彼女の言葉を訝しむゴッドも、誰も気付かない。王都、その言葉を聞いてユールの目に灯った、暗い、強い光には。

 つづきませーん!


2013/6/19

ついに文章化!風の中のミルクティ!
メイリンちゃんがヒロインっぽくなったけど、ルサ・イルとのダブルヒロインでもありです
最後変なフラグ建ったのはキリよく終わるためにつけただけなんで気にしないで!

とか言ってたのにその設定を採用して続きを書いた