ルビィ誕2025

夢小説企画


 単語帳をめくる。ページの左上に現れた単語を読み上げる。
「forget」
「うあーん。……忘れた」
 変な声を上げながら首を捻った苑美は、今日初めて正解に近いことを答えた。
「忘れる、ね」
「えっ合ってたの!? すごい、強運じゃん」
「たまたまでしょ!」
 灯香が呆れると、苑美はご機嫌から一転、急にやる気をなくしたように、ジャガード風のラグに倒れ込んだ。ピンクと緑の柔らかい毛足に頬をつけて、
「ねーえ、そろそろ休憩しよ?」
 ソファに座って単語帳を開いた灯香を見上げる。まるく大きな瞳の上目遣い。
「得意技だ……」
「なんか言った?」
 灯香が思わずこぼした言葉を追いかけるように、苑美はソファによじのぼってくる。
 二人掛けという設定になっているソファは、苑美が寝そべるほどの空間を残していない。灯香が単語帳をテーブルに置いた隙を見計らったように、明るい茶髪が膝の上に滑り込んだ。
 膝、というか揃えた腿の上にずしりと頭の重みがある。膝枕。灯香はいたずらっぽく笑う苑美の表情を一度見下ろして、すっと視線をそらした。
 隣り合って座って、近すぎるパーソナルスペースで話しかけられるときよりはずっと距離がある。それなのに、なんだかドギマギしてしまう。普段こんなふうに正面から覗き込む機会がないからだろうか。
「んふふ、きゅーけーきゅーけー」
 灯香の揺れる内心などつゆ知らず、苑美は心地よさそうに目を閉じようとする。
「そこで寝るの!?」
 つい大きな声が出た。あっ、と口元に手をやるが、それに対する苑美の返事は、
「だめ?」
 膝にのせたままの頭を器用にかしげて、甘える気しかない態度に言葉に声音。露骨に可愛く振る舞えば灯香が望みを叶えてくれると信じ切っているかのような仕草は、甘く見られているようでもあり、頼られているようでもある。
 どうしても振り払えない照れをごまかすように、灯香はわざとそっけなく言った。
「なんか、そうやってるとおっきい犬みたい」
 これでちょっと反発が返ってくるぐらいがちょうどいい。そう思ってのからかいまじりを、苑美はきょとんとした顔で聞いていた。
 それから二、三秒、考えている様子を見せたあと、ふいにゆるく指を握った両手を顔のそばへ持ち上げたかと思うと、
「わん♪」
 高い鳴き声、の声真似。それがなんともいえず似合っていて、認めるしかない、灯香にはどうしようもないほど可愛かった。
 本人はふざけているつもりなのか、犬のポーズのままくいくい顎を挙げて、撫でろとでもいうように笑顔でアピールしてくる。
「苑美ちゃんて、ほんとあざといよね……」
「わん?」
「一回考え直したほうがいいと思う」
 苦情みたいな言い回しになってしまっても、苑美に気にした様子はなく、灯香はだって本人が要求するんだから、と言い訳しながらその髪をぎこちなく撫でてやることにした。


2025/11/25

いつの間にか夢ヒロインのほうがメロメロな感じになってしまった