ゴドグロ 高校生 ゴッド視点一人称
ゴドグロ 高校生 ゴッド視点一人称
委員決め、なんていうのはだいたいが面倒の押しつけあいだ。面倒ごとを放り投げるのには、受け取る当人がいないほうが都合がいい。というわけで、仕事上ひとより欠席の多い俺には委員が回ってきがちだった。だけど、委員を決める肝心なときにいないやつが、委員会のある肝心な日に出席している確実性はどれほどのものだろう。教師も、責任感を育てるとか適当な方便ばかり使っていないで、そういうところをきちっと指導しておいてほしい。
だが決まってしまったものに対してはなにを言っても無駄だ。月末の金曜、美化委員に決まってしまった俺とクラスの女子一名は、掃除当番が去ったあとの教室から、ペットボトル、瓶、缶、プラスチックのゴミを専用の収集場まで運び出さなければならない。のちのちまで恨まれない程度の理由があればさぼってもよかったが、あいにくと仕事までには多少の余裕がある。たいした量の入っていないゴミ袋のくちを、委員の女子とその友達が次々と縛っていくのを、俺は荷物をまとめながら待った。ゴミ袋を全部引き受けて校舎裏の収集場へ立ち寄ってそのまま帰る、それがいちばん楽なプランだった。
けれど、
「あの、明坂くん」
振り返った委員の視線の揺れ方で、俺はプラン変更が余儀なくされることを察してしまった。両手に提げていたゴミ袋を左手に預けて、右手が赤い頬を掻く。俺の足下と肩口を何度も往復しながら、視線がなんとか顔まで上ってくる。さっさとしてくれ。どうせ、言われなくてもわかるようなことしか言わないんだ。
「あの、えっとね」
残る二つのゴミ袋を持った友達が、肘で委員の背中を小突く。ここまでされたら、わからないふりなんかしていなくても、先読みが過ぎるとは思われないだろう。
「半分持てばいーの?」
手を差し出すと、委員はハッと顔を上げて、救われたような笑顔になる。お望み通り、というやつだった。ねがわくは収集場とこことの往復を一緒に歩きたいとかそんなところだろうが、そこまでしてやる義理はない。鞄は肩に掛けたまま、委員からひとつ、友達からひとつ、ゴミ袋を受け取る。友達の手に残ったひとつを委員が引き取ったところまで予想通りだ。
めんどくせ、という言葉を飲み込んで、教室後ろのドアへ足を向けたときだった。
「熱斗」
開けっ放しだった戸口にグロウが顔を出した。
「見てたのか」
「なにを? うちは単に言付けにきたばあやけど」
その表情も声色もフラットで、はぐらかされたのかどうかすら俺には読み取れない。
「言付けってなんの」
委員の友達が露骨に身を乗り出して会話に耳を澄ます。委員のほうはその一歩後ろで目を大きく開いてグロウを見ていた。グロウはその目の意味には気づいてないみたいに、できた後輩の仕草で会釈する。それから、早々に用事を済ませたい人間の早口で、
「今晩の、ないなったき」
今晩の仕事、ということなのは問題なく伝わった。
「了解。わざわざそれ言いにきたのか」
「うちは今日これから苑美と買い物。あんたが出る時間までによう伝えんろうと思うて」
「そうか、わかった」
うなずくと、グロウが用は済んだとばかりに迷いなくきびすを返す――より、例の友達のほうが先に動いた。
「ねえねえ誰? 明坂くんの後輩? 彼女?」
ひとりだったら舌打ちのひとつでも出ていただろう。好奇心を見せかけた声音には牽制の色がありありと映って、その主張の強さがうざいったらない。しかし、いまはグロウがいた。下手なことをするとあとでなにを言われるかわからない。特に今夜は仕事もなくなってしまったから、顔を合わせずに家を出て勝手にほとぼりを冷ましてもらうこともできないのだ。
「えっと、従妹ですー」
グロウは勘違いに驚くのに必要な間をとって、ふっとごく自然に笑った。そこで初めて理解したみたいに、ちゃっかりと俺の傍らではらはらしている委員を見やる。その眼差しには意外なほど嫌味がない。いつも些細なことで棘を出しているのが嘘みたいな引っかかりのなさ。かといって優越感や委員の友達のような牽制を滲ませるでもなく、ただ気安い距離で笑っている。
俺との距離を、その位置づけを、関わりを、絶えず意識してじたばたと、俺まで息苦しくなるほどにもがいているのに。グロウはこの近さを確信している。そういうところは可愛いと思う。求められる意味合いを乗せることはできないから、とてもくちにはできないけれど。
「じゃあそういうことやき。またね」
「おう」
ゴミ袋がないほうの手を上げると、グロウは最後にまた女子たちに軽く頭を下げて出て行った。
足音が遠ざかるのを待って、さっきからうっとうしいばかりの友達が委員の背中を叩いてなにかささやく。励ましているのだろう。グロウを見くびっているのは聞かなくてもわかった。
それがおかしくて、でも笑ってしまうほどではなくて、何も言わずに歩き出す。後ろから慌てた足音が追いかけてくるのを聞きつつ、俺は委員を不自然に置いていかない程度のペースを探した。
内心というかモノローグというか、まあ地の文では人間界でも本名で呼んでそう