時期不明 アクア一人称 アクルビ
時期不明 アクア一人称 アクルビ
最近よく、同じ夢を見る。
ルビィが泣く夢だ。
理由は様々、宿題が終わってないだとか、冷蔵庫のケーキを誰かが食べただとかのどうでもいいことから、おれが死んだとかクルスさんが危篤だとかの深刻なモノまである。同じなのは結果だけ。あらゆる理由で、夢の中のルビィは涙を流す。
おれはそれを、どこか遠く、ガラスの向こうみたいな場所から見つめている。
基本的に、夢の中に自分が入り込んでいることはない。どんな夢の時でも、おれは離れたところから姿のないただの視点として、夢を見ている。自分で自分を見ていることもある。
そのせいか、今見ている光景が夢だとたいてい分かるのだ。けれど、自分でその夢をどうこうできた試しはない。
だからおれは、一度も泣いているルビィを泣き止ませられなかった。それ以前に、ルビィを泣かせないこともできなかった。
いつもいつも、間があるのだ。自分が遠い視点じゃなく、夢の世界の中に入り込んでさえいればルビィを泣かさずに済むような間が。
そしておれは、今日も同じ夢を見る。
今日のルビィは、おれと一緒に学校帰りの道を歩いていた。はしゃぎ回って靴紐を踏んづけて、転んだ。膝を見ると少し擦りむけて血がにじんでいて、ルビィはそれだけで泣き出す。
その時に、やっぱり微妙な空白があった。おれを見上げて、「痛い」とルビィが呟く。おれは何も言わない。困ったように傷口をじっと見て、立ち上がるのに手を貸そうともしない。
どうして何もしないんだよ。そう言いたかったけれど、夢を見ているおれには体がなくて、見ていることしか出来なかった。
だからルビィは泣き出して、隣に立つおれはただおろおろとその様子を見下ろしている。
正直、とてもしんどい。
見ているだけで、向こうにはちゃんと自分がいるのにその自分は自由にならず、何も出来ない。現実ではないといえ、見ているのも嫌になっておれは目をそらそうとした。
「なにやってんの?」
夢の風景の中のルビィが、こちらを見た。傍らのおれじゃなく、夢を見ているおれを。
「ねえアクア、なんでそんなとこにいるの? なんでこっちこないの? なんで? あたし、泣いてるんだよ?」
ルビィ。呼ぼうとしても声が出ない。当然だ。おれは見ているだけの目で、体がない。
「いいの? アクアはあたしが泣いてもいいとおもってるの?」
「もしかしてほんとうは、あたしに泣いてほしいんじゃないの? このゆめ、もうなんかいめ?」
「いやなんでしょ。きらいなんでしょ。じゃあもうこんなのみなきゃいいじゃん。なんでずーっと、あたしが泣くとこばっかりみてるの?」
「あたしが泣くとアクアはどうおもうの? かなしい? つらい? くるしい? それとも、うれしいのかな。あたしのよわいとこがアクアには」
そんなんじゃない。ルサ・イルとの泣かないって約束を破りたくない、だからおれと約束したんだろ。なんでそんなこと言うんだよ。なんでおれがそんなこと喜ぶんだよ。
目が覚めると、泣いているのはおれだった。
夢で見たはずのルビィの泣き顔は、今日もやっぱり覚えていなかった。
フォルダに眠っていた薄暗いアクルビ
泣かない子が泣くとこを見るこわさ、見てみたい気持ち、見たい自分への恐怖と嫌悪、的な