ルビィとグロウ ルビィ視点三人称 高1くらいか
ルビィとグロウ ルビィ視点三人称 高1くらいか
「なにしてんの」
リビングで珍しく、グロウが一人でテレビを見ていた。
「DVD。椎羅のおすすめやって」
言われてルビィは、グロウの膝の横に置かれたパッケージを覗き込む。
「なんかCMやってたね。もともと小説なんだっけ?」
「漫画やと。少女漫画」
「ふーん」
そのままグロウの隣に座る。スクールバッグはソファに預けた。
「あんた制服着替えんが」
「おすすめなんでしょ?」
グロウはそれ以上何も言わず、画面に目を戻す。こまごました雑貨でいっぱいの、女の子の部屋。書きかけの日記。しばらくリビングにはヒロインのモノローグだけが響いた。そして夜道を行く男の姿が映る。昨夜のドラマでも主役をやっていた人だ。彼のモノローグはなかったけれど、その手がもてあそぶ携帯電話には、ヒロインの名前が表示されていた。
シーンが切り替わり、柔らかなBGMが流れ出す。ひざ丈のスカートをひるがえしてヒロインが住宅街の階段を駆け上がっていく。そこにはあの携帯の持ち主がいて、ヒロインに愛想よく笑いかけた。
二言三言。交わす言葉は映画らしく気の利いたもので、けれどルビィにはまだるっこしくて仕方ない。さっきのモノローグだけで二人の関係は完璧に分かった。それぐらい簡単なのだ。ヒロインちゃんは携帯くんがずっと前から好きで、携帯くんもヒロインちゃんを好きらしい。
弾まない会話はあっという間にぼそぼそ途切れた。ヒロインは分かりやすく、携帯男は分かりにくく、それでもしっかりと残念そうにしてお互いに踵を返す。
「めんどくさそうな話ー。さっさと言っちゃえばいいのに」
「言うち、何を?」
グロウは本気で分かってないような聞き方をした。
「決まってるじゃん。あっちもこっちもお互い好きなんでしょ。だったら好きだよー、味方だよー、協力したいよーって言っちゃえばいいのに」
ヒロインは携帯男の悩み事に関わりたがっていた。携帯男は、今始まったシーンからするとそれにヒロインを巻き込むまいとしているようだ。どっかで聞いたような話だ。
だからグロウも、そうやねと、もしくは、そんなことしたら映画終わるろ、くらいに言うと思っていた。
「言えんろ」
「え?」
「だって好きやき関わらせてって言うて、好きでおってほしゅうないって言われたら? 関わる理由の方がいかんって言われたら、影から応援も全部できんなるやか」
「好きでいるのがだめなんてことあるの?」
驚いて聞き返すと、グロウに脇を小突かれた。
「いたっ、なに?」
「幸せもん」
「ええー? あたしへんなこと言った?」
「自分で分からん?」
ルビィにはむしろ、グロウが自分の論を当然のことのように言う方が分からなかった。
「分かんないよ。好きでいちゃだめなんてありえないでしょ。味方したい、困ってたら助けたいって悪いことなんもないじゃん。迷惑かけたくないってことだよ? それがだめってどういうこと?」
当たり前のことを言ったつもりだったのに、グロウは物わかりの悪い子を相手にしたみたいにため息交じりに笑う。
「そうやねえ。ルビィの好きやったら、誰がもろうても嬉しいかもねえ」
「もー、やっぱり分かんないよ! どういう意味ー?」
「……好きな相手からなんもいらん人は少ないちゅうことよ」
それだけ答えて、グロウは映画を少し巻き戻した。しゃべっていて耳に入ってこなかった台詞が聞こえてくる。
『こんな大変な時に、迷惑かけちゃだめだ。言いたいことは一つしかないのに、言えない言葉も一つだけ……』
ヒロインは友達の胸で泣いていた。
ルビィにはやっぱりグロウの言う意味も、ヒロインの涙の意味も分からなくて、頭に入ってくるのはCMでも聞いたBGMだけだった。
この二人はどんなに腹割って話しても無駄なんだろうなあ
私はグロウの言うことも分かるけど、実感としてはルビィ側