アクルビ 高校…は無理そうだから本編後。子世代ではない ルビィ視点3人称
アクルビ 高校…は無理そうだから本編後。子世代ではない ルビィ視点3人称
ドアを開けると部屋は真っ暗だった。
「アクアー、お風呂あいたよー」
名前を呼びながら、ルビィは手探りで壁のタイルを探す。魔法陣の埋め込まれたタイルに手が触れ、そこに魔力を通すと、天井の魔法陣に明かりがともった。
「ありゃ、寝てる」
明かりの真下のベッドには、アクアがうつ伏せで倒れ込んでいた。最初の頃は「大丈夫!? 何かあったの!?」と大騒ぎしたものだが、慣れてしまった今は足音を忍ばせ、もともと安らかではなさそうな眠りをこれ以上邪魔しないよう気を付けつつ部屋に踏み入る。
机を見れば、軽く30センチは高さのある紙束に太い帯をかけたものが、どどんと二つ鎮座していた。終わらせた仕事であろう。帯にはさっぱりとした字で「うらろ事務所」と書かれ、署名欄には人間界で買ったシャチハタで「早瀬」の印が押されていた。原稿提出時に必要なサインがどうしても思いつかなくて、苦し紛れに考えたものだ。
その辺に散らばしてある筆記具類をペン皿に戻し、どう見てもゆるゆるのインク瓶の蓋を締めて、自分も寝る準備をしようとまた廊下へ向かいかける。
その時、
「え」
がし、と腕を掴まれた。いや、引っ張られた。起きてたんだ、と言う前に、残る力を振り絞ったような腕にベッドへ引き倒される。天井ばかりになった視界に影が差す。アクアが頭の横に腕をつく。水色の瞳と目が合うが、その視線はどこか曖昧で行き先が定まらない。
その時点でルビィには何事が起きているのか分かっていた。息を塞ぐみたいに口づけられる。じわりと滲むように魔力が動く。力移しだ。ついでに、アクアの魔力が相当に減っていることも伝わってくる。
(こんなになるまで何書いてんだか……って仕事か)
流れ出ていく魔力を後押ししてやりながらそんなことを思っていると
「っ、っ? ~~っ!」
いきなりがくりとアクアの腕から力が抜けた。ようにではなく本当に息が塞がれてしまう。ばしばし肩を叩いてみるも、退くとか起き上がるとか以前に動く気配もない。目は完全に閉じていた。
「~、っ! っ!! っ、ああ! もう!」
肩の下に手を入れ、寝返りの要領で上下をひっくり返す。はあ、と息をついて体を起こすと、やっときちんと目が合った。
「……ルビィ」
「まだ?」
「まだ」
たぶん無意識に、首に腕が回される。ルビィはそれに逆らわず、二の舞にならないようしっかり手をついて力移し。どんどん魔力を注いでいると
「う、もういい、もういいっ」
と首をひねって逃げられた。問答無用で力移しに持ち込んだ上、自分から続きを要求しておいての拒みっぷりにルビィは呆れるが、アクアはそれどころではないようで、枕のところまで這いずって行って、ようよう上半身を起こす。その視線はルビィではなく、机の上の紙束に向けられた。
「よかった……ちゃんとまとめてある……」
意識がはっきりするなり原稿だった。気がかりはそれだけだったのか、再びアクアはシーツに倒れた。
「あれ一気に書いたの? 明日提出?」
「うう……」
返事はうめき声が一つ。自分でやったことだろうに提出の準備をしたかも覚えてないというのは、今回に限った話ではないが重症の部類だ。
「ちょっとアクアー、大丈夫? 魔力足りてる? 遠慮しないでよー」
言いつつ顔を近づけると「いいって」と押し返された。今更恥ずかしがっているらしい。これも慣れたことだが、ちょっとめんどくさい。
「ていうか、魔力そこまで消耗してて、腕とか腰とか大丈夫なの?」
「言われると思い出すから言わないで……」
枕を引き寄せて抱えていた右手が、ぱたんとシーツに落ちた。その指はインクでうっすらとグレーに汚れている。
(言われなきゃ思い出さないってどんな集中力よ)
とルビィはまた呆れる。アクアはそんなこと知る由もなく、顔を顰めてごそごそと起き出した。
「うあー、痛い。思い出したらほんと背中やばい、痛い。お風呂行く」
「痛いなら寝てればー?」
「痛くて眠気飛んだ。あっためたらマシになるから」
「あっそう。階段とか気を付けてね」
「うん分かった」
そう言って、アクアは何にも持たずに部屋を出て行った。服の袖と胸に散ったインクの染みを思い返しながら、ルビィは考える。
(寝間着、持ってってあげたほうがいいのかなあ)
しばらく書きかけ放置してたけど、これ以上やりたいこともなくて終わらせた
本編後ってしたけど、本編中だったらいいのにと思って書いてた