朝チュン1

朝チュンアミダその1 ユールが起きたらルビィがいた 視点不明、ユール中心?3人称


 朝の六時半。目覚ましが鳴ることもなく、いつも通りにユールは目を覚ました。そのまま身を起こして、布団を一回、二回とめくって三分の一に畳む。そして、隣りを見た。
「……」
 ルビィがいた。布団の下の毛布をがっちり握りしめて、平和そうな顔だけ横に向けて、うつ伏せに丸まっている。口の端には涎の垂れた跡があり、シーツまで続いてパリパリに乾いていた。
「……」
 ユールはベッドの上に立って、ルビィの体をまたいでベッドを下りる。この時期朝は冷えるから、上着を羽織る。
 外から、声と物音がし始めた。
「おーい、アクア、起きろー」
 すぐ近くでドアの開く音。裸足なのか、足音はあまり聞こえない。今度は少し遠いドアが開いて、
「ルビィ、お前もそろそろ――え?」
 いきなり小さくなった声が、今度は大きく、階下に尋ねる。
「グロウ、ルビィもう起きてんのか?」
「な訳ないろー。早う起こいてきて」
「でも」
 いないんだけど、とゴッドが言いかけたのと同時に、ユールが部屋のドアを開けた。
「おはよう」
「あ、ああ。おはよ」
 まずは姉の教えに従ってきちんと挨拶。それから、さすがのユールもこれは言うべきだと判断できたことを伝える。
「ルビィはおれの部屋で寝ている」
「はあ?」

「はーあー。またやっちゃったよー」
 五人が揃った食卓で、ルビィは決まり悪げにそう言った。
「あんたえい加減に覚えやー。もう三回目やお」
 グロウが弁当に詰めたおかずの残りを台所から持ってくる。ルビィは牛乳の入ったマグカップの裏から
「仕方ないじゃん。半分寝てたんだし」
 と反論して、ちらっと斜め前のユールを見る。
「ていうか、ユールが教えてくれたらよかったんだよ。あたしが入ってきた時、目え覚めたんでしょ? なんで起こしてくんないのさ!」
 ルビィがユールの部屋にいた理由は、ごくごく簡単なものだった。夜中トイレに起き出して、寝ぼけて二回を魔界の実家と間違え、自分の部屋のつもりでユールのベッドに潜り込んだ。すぐに気付いたユールがルビィにそのことを指摘しなかった理由は
「そうしなければいけないとは思わなかったから」
 とこちらも簡潔だった。
「ゴッドは部屋まで運んでくれたのにー」
 末っ子思考全開でぶーたれるルビィは、同じ並びのゴッドの部屋にも過去二回、寝ぼけて侵入している。
「それより、入った布団に人がいて、間違えたって気付かないの?」
 静かにトーストをかじっていたアクアが呆れて聞いた。ルビィはそれに、しれっと答える。
「お兄ちゃんかと思って」
「そういうもんなの?」
 首を傾げるアクアの前に、とっくに支度を済ませたゴッドが人数分の水筒を出してきた。
「お前らいつまで食ってんだ? もうあんまり時間ねーぞ」
「えっ? あっ、ほんとだ」
「グロウ、おれの体操服どこ?」
「まだベランダ。あ、ユール、弁当に蓋しちょって」
「分かった。ごちそうさまでした」
 ユールは椅子を立ち、食器を持って台所へ。アクアが後を追ってきて、コップと皿を置くとベランダへ駆けていく。ルビィは時計を横目に、それでもそんなに急ぐでもなく牛乳を飲んでいた。グロウがそれを急かしつつ、並んだ水筒にお茶を注ぐ。ゴッドは多分、止まった洗濯機の中身を出しに行ったのだろう。
 いつもと変わらない平日の朝。今日も、普通の日になりそうだった。


2013/10/25

この話を椎羅にしたらハンカチ噛んで羨ましがるだろうなあ
ユール視点というのがとても困った