グロウ誕生日2013

グロウ誕生日短編 withルビィ グロウ視点3人称 vol.1と2の間


 カレンダーを捲る。梅雨をイメージしたくすんだ水色が、青空の色に塗り替わる。
「あれ?」
 まだ真っ新なはずの七月のページに、一つだけ書き込みを見つけて、グロウは紙を持ち上げたまま手を止めた。
 7月8日の欄に『グロウ』と一言。
(誕生日……誰にも言うちゃあせんに)
 知っているとしたらゴッドくらいだが、やけにどっしりした黒マジックの文字は彼ではない。
(ゴッドやったらもっと味気ない字やし、アクアはまっと綺麗やし、ユールはこんなことせんろう)
 唯一の可能性にあっという間に辿り着き、グロウはリビングを振り返った。
「ルビィ、これ書いたがあんた?」
「これってー?」
 夕方のローカルニュースを流し見ていたルビィが、ソファをたって寄ってくる。グロウの示す『これ』を目にして、その口元にいたずらっぽい笑みが浮かんだ。
「それね! そうそう、あたしが書いたの。グロウ、その日誕生日なんでしょ?」
「なんで知っちゅうが?」
「アクアの誕生日祝い、みんなでしたでしょ。あの時ゴッドに、他のみんなの誕生日も聞いたの。ゴッドのは四月だったから、お祝いするなら来年だけどね」
「やっぱりゴッドかえ」
「だってグロウに聞いてもはぐらかされそうなんだもん」
「誕生日ばあ素直に言うちや。あんたうちのこと何やと思うちゅうがで」
 冗談ぽく言うと、ルビィは「何だろねー」と明らかに適当な答えを寄越して、それよりさ、と話を変えた。
「グロウ、誕生日に何欲しい?」
 べりっ、とここでようやく六月のカレンダーを引きちぎって、グロウは返事を悩む。ぱっと思いつくのは情報だの手がかりだの、とても誕生日プレゼントには似つかわしくないものばかりだ。せいぜいが魔法陣だが、ルビィに求めるものとしてはやはり不相応。考え込んで出した希望は
「――料理らあどう?」
「料理?」
 きょとんとした顔でルビィが復唱する。
「そう。うちの代わりに晩御飯作ってくれん?」
「そーいうことか。いいね、料理! 分かった、作るよ。メニューは何がいいの?」
「作ってくれるがやったら何やちかあんで」
「そう言わずに。あたし頑張るからさあ!」
 まとわりつくように腕を絡めてくるルビィは、人のことなのに嬉しそうにはしゃいでいた。
(こういうとこ、ほんとえいなあ)
 ここでの暮らしについて、そして羨ましいという意味も少しこめて、そんなことを思う。何にしょうねえ、と話をつなぎつつ、グロウの足は台所へと向かっていた。今日はまだ、ご飯を作るのは彼女の役目だ。

「そうやねえ。ルビィの得意料理って何?」
「シチュー!」
「あ、それはやめて」


2013/6/28

こちらも少し早めに仕上げたグロウ誕生日おめでとう短編でした
誰との話にするかアミダしたもののネタが浮かばなくて焦った
ゴッド以外と一対一で絡ませるの難しい!
特に精霊女子コンビは近からず遠からずの微妙な距離なんですね。本音でぶつかり合うことはなさそう。あったとして、グロウは他のみんなの代表として主張をぶつけることになりそう