五月一日。連休に挟まれた、それはそれは憂鬱な平日のこと。
枝葉川中学校一年一組の教室で、少女が一人、小さく声を上げた。
「あれ?」
「どうかした?」
彼女とほとんど同じつくりの顔をした少女が、その机の前を去ろうとしていた足を止める。問われた少女は首を巡らせて教室を見渡した。背中に流した髪が揺れる。
「苑美、今日は休みかしら」
「ぎりぎりに来るんじゃないの?」
「でも、もう予鈴も鳴っちゃったわよ」
二人はそろって、教室前の時計を見上げる。ホームルームが始まるまで三分とない。その下を、一人の男子生徒が慌ただしく教室へと駆け込んできた。
「っしゃ、ギリセフ」
少女らの斜め前の席で、彼はそんな独り言と、安堵の息をつく。そしてふと教室を見回し、少女らを振り返った。
「なあ、今日早瀬休み?」
「さあ。わたしたちそんなに早瀬くんとはしゃべったことないし……」
髪の長い方の少女が答え、立っていた少女が付け加える。
「そういえば楓生も来てないみたいだったわよ。みんな仮病で休んで、連休つなげようとしてるんじゃないの?」
「ありえる! いいなあ、わたしも休みにしてどこか遊びに行きたーい」
「早瀬はなさそうだなあ。学校あること忘れてるのか?」
そうこうしているうちに、担任の教師が教室に入ってきた。
「依川ー、日直日誌取りに来い」
「えっ、今日オレすかー」
依川と呼ばれた少年が着いたばかりの席を離れる。
「わたしも教室戻らなきゃ。じゃあね、椎羅」
「はーい、いってらっしゃい椎矢」
少女たちも、そんな言葉を交わしてひととき別れる。教壇からは教師が本鈴を待たずしてプリントを配り始める。テスト期間が近いことを知らせる文面に、椎羅は浅くため息をついた。
「テストかあ。そんなことより、なにか楽しいことないかしら」
チャイムが鳴り、ホームルームが始まる。友達のいない平日は、彼女らにとってもう、いつもとはすこし違う日として流れ出していた。